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About technique of behavior modification.
​-行動変容の技法について-
 本記事では、犬の行動を変えるために用いられる技法について説明しています。行動変容の具体的な方法については、犬の行動や年齢、体調によっても変わります。このため、行動変容技法の概要について記述しています。
 下地づくり 
 犬にスムーズな学習を促すには、なるべく健康な身体である方が理想的です。身体が健全に機能するためには、生活習慣が大きく貢献します。コンサルテーションでは、生活習慣や環境を整えることから始めます。これだけでも、行動の改善や、緩和することも多くあります。
・生活習慣の是正
・食生活の改善
・飼い主との関わり合いの程度
 行動の機能的アセスメント (Functional behaviour assessment) 
 問題行動の場合では、どのような行動が問題となっているかの観察を行い、その行動の原因(機能)を分析します。分析の結果に基づき行動療法を用いて行動を変えていきます。例えば、犬や人、その他の対象に過剰に吠える、攻撃するなどの行動の場合で用いられる方法は、"系統的脱感作、拮抗条件付け、分化強化"などが主な行動療法です。これらの行動療法では犬が新しい行動を獲得するまでの一定期間は練習が必要となります。練習期間については、個体の行動の程度、練習頻度、住環境、生活環境によっても変わります。
 行動療法のトレーニング (Behaviour therapy ) 
 新しい行動を獲得するための練習では、機能分析で得た情報を元に作るトレーニングプログラムを実施します。主に強化子の提示や除去を行います。強化子は、食べ物、玩具、飼い主の関心、その他、犬がメリットを感じられるものを選んで用います。不安行動(分離不安症、怖がって逃げる、震える、脱糞・失禁するなど)の場合でも、報酬の提示や除去を用いた同様の手続きをとります。不安の場合では改善までに時間を要します。
 仔犬のトレーニングでは、問題行動を予防するためのトレーニングメソッドや、飼い主に必要なスキルの習得に重きを置いてコンサルテーションを行います。いづれの場合においても、基本となるグルーヴトレーニング(※1)を行い、このトレーニングで身についたスキルを使って新しい行動を作ります。
・行動療法で対応できる主な問題行動
 攻撃関連行動:噛む,襲う,吠える,飛びかかる,追いかける,怒るなど
 情緒不安定:感情の起伏が激しい,多動症など
 不安関連行動:外を怖がる,物音に敏感に反応する,音を怖がるなど
 不安障害:分離不安障害,社会不安,広場恐怖,強迫性障害など
 精神障害:常同症(常同行動),学習性無力感など
 ※常同行動:脚を舐め続けるや、尾を追いかけて噛む,攻撃するなどの自傷行為を繰り返す症状
※1グルーヴトレーニングは、人間の認知行動療法でのリラクゼーショントレーニングを犬に置き換えたものです。呼称は独自のものです。
 グルーヴトレーニング(Groove Training) 
​ グルーヴトレーニングは、飼い主と犬が息を合わせるための練習です。互いに共感し合える関係になるためのものです。このトレーニングは必ず犬が落ち着いた状況で楽しく行います。犬と飼い主がグルーヴトレーニングを行うことで、両者の関係はより良いものへと変わります。これには信頼関係の強化、行動療法に必要なスキルを獲得することが目的となります。主なトレーニングは以下のものです。
​1,ネームエクササイズ (Name exercise)
 犬の名前に対して、ポジティブな認知を作ります。犬は名前が呼ばれると嬉しい気持ちになり、飼い主に集中できるようになります。犬が何らかの刺激に遭遇してストレスを感じている時でも、名前を呼ぶことでポジティブな感情に移行しやすくなります。
2,アイコンタクト (Eye contact) Ver,1 & Ver,2
 犬が一切の命令がなくてもこちらに意識を向け、集中できるようになるトレーニングです。ここでは犬が自主的にアイコンタクトを取ることを目的としています。このため、アイコンタクトをさせるために、一切の指示や命令はしません。犬は自分で考えて、飼い主に意識を集中するようになります。
3,フォローミーエクササイズ (Follow me exercise)
 ​犬が飼い主に集中しながら移動するトレーニングです。このトレーニングも、具体的な指示や命令はせず、犬が自分で考えた結果、飼い主について歩けるようになる練習です。
 
 これらのトレーニングで獲得した行動を用いて、問題行動が起こる刺激に暴露させ、系統的脱感作と拮抗条件付けなどの行動療法を行います。
・系統的脱感作 (Systematic desensitization)
 反応が起こる刺激の強度を弱めて徐々に暴露させ、刺激の強度を徐々に上げて反応が起こらなくする技法。
・拮抗条件付け (Counter conditioning)
 主に系統的脱感作とセットで行われる。すでにある嫌悪感を引き起こす刺激に晒して、報酬の対提示を繰り返すと嫌悪感がなくなる。条件によっては、嫌悪感から期待感に変えることができる技法。
その他の行動療法、または行動療法の補助
・環境の整備:問題行動が起こらない環境を整備して行動を減少させる方法,生活環境など
・分化強化:代替行動分化強化(DRA),他行動分化強化(DRO),低頻度行動分化強化(DRL)など
・​社会的学習:模倣行動を引き出す環境に置き、望ましい行動を獲得させる方法
・栄養学的アプローチ:栄養成分の調整,サプリメントなど
 ボディーランゲージ(Body language) 
 犬は、仕草で感情を我々に伝えています。犬が発しているボディーランゲージを読み、犬の心の状態を把握することで、行動療法はスムーズに進みます。また、犬は「自分の気持ちは飼い主に伝わっているという」と自覚できると、大きな安心感を得ます。これは、問題行動の治療だけでなく、仔犬が育つ上でも大きな効果があります。犬とコミュニケーションが取れるように、ボディーランゲージを読み、我々の意図もボディーランゲージで犬に伝えることもできます。この点は、飼い主が習得する必要があります。
 試行回数と期間   
 新しい行動を獲得するための練習回数や期間は、個体によって大きく変わります。犬が置かれている状況や環境、これまでの経験、体調、性格、性別、年齢、遺伝によっても様々です。コンサルテーションは1クール3回~6回で実施するのが通常です。しかし、犬が強烈な痛みや恐怖によるトラウマがある場合などでは、10回~15回の実施になることがあります。各コンサルテーションの間隔は症状により異なりますが、多くは2週間程度が理想です。

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